今回はライトノベルをご紹介。
試し読みは
こちらでどうぞ。
此よりは荒野 Gunning for Nosferatus 1
著者:水無神知宏
出版社:小学館ガガガ文庫
初版:2008/11/23
ページ数:382P(序章~終章)
章立て:
序章
第一章
第二章
第三章
第四章
終章
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以下ネタばれバリバリなので、未読の方はご注意を。
闇に跋扈する正体不明の組織・不死者秘儀団に母と妹を惨殺され、父も殺された少年・アランは、目的を同じくする凄腕の拳銃使い・ステラと共に荒野へと旅立つ―――
物語の世界観は、帯にもあるとおり西部劇にダークファンタジーの要素を混ぜ込んだもの。
ちょっとした謎解き要素があるものの、主人公・アランの挫折と成長の山谷を大小合わせて幾度か織り込んだ展開はとてもオーソドックスなもので、筋書きに意外性が少ない代わりに大きく外すこともなく、端正で丁寧な文体とも相俟って安心して読むことが出来ます。
他に特筆すべき点としては、西部劇をベースにしているだけあって「出来るだけ現実的(リアル)に」というところに重点が置かれていることでしょうか。
もちろん、竜やゴブリンが出て来ている時点で現実世界とは違うわけですが、しかしそれら亜人や魔族らが派手な攻撃魔法を飛ばしてくることはなく、種族の特性を現すような能力―――飛翔能力や催眠など―――を使用してくるのみなので、主人公側の主要な武器である「拳銃」が対等な対抗手段として生きてきています。
ヒロインのステラをファンタジーによくあるような剣士ではなく、拳銃使いにしたのも賞賛すべき点でしょう。ありがちなファンタジー小説やマンガでは、細身の美少女が自分の身体ほどもある大剣を軽々と振り回し、筋骨逞しい大男や魔獣と対等以上に渡り合ったりしていますが、この作品ではあえてそういう荒唐無稽な設定は取らず、膂力の劣る細身の少女でも鍛錬次第で自在に操ることが出来、なおかつ相手と直接の筋力勝負をせずに済む拳銃を武器として持たせています。
これもまた、作者が「現実的」を重んじているんだな、と思わせてくれるポイントです。
個人的には、アランの叔父の名前をディヴィッドにしてある点も心憎いところ。グラナダ版ホームズで見た「曲がった男」のエピソード、恋人が死地に追いやられたのは自分を手に入れるために夫が巡らした策謀のためだと知った妻が、旧約聖書のダビデとバテシバのエピソード―――人妻・バテシバに横恋慕したダビデ王が、夫のウリヤを戦死させ、バテシバを自分の妻として迎え入れる―――になぞらえて「デイビッド(=ダビデ)」と罵ったのを思い出して、思わずニヤリとしてしまいました。
つまり、叔父には最初から裏切り者の伏線が張られていた、というわけです。
次に、残念だと思った点を箇条書きでざっと。
文章が「哀歌」の時に比べてだいぶ変わったというか、難しい言い回しを多用した同人のような感じに。
特に前半部で、基調の西部劇と、スパイスとなるファンタジー要素の噛み合いがどうにも悪い。まるで、もともと普通の西部劇として書かれた文章にあとからファンタジー要素を入れ込んだような……、あるいは、文中に入れ込んでおくべき大事な説明が抜け落ちているかのような。ただし、ソフィアが「ソフィア」として出て来た辺りから、この二つの要素が急速に馴染んできた。
サブヒロインがごく早い段階でエリザベスからジョゼ(とサンディ)に移ってしまい、エリザベスの存在が意識の外に置かれてしまったために、ラスト近くのどんでん返しの意外性が少ない。
主人公が窮地に陥ってもどこからか強力な助けが入るため、物語の進行が予定調和的に感じられてしまう。
ステラが拳銃使いになった理由が予想通り過ぎて、少々肩すかし気味。
一つの文中で「ようやく」が二回繰り返されてもいましたし、今はまだエンジンがかかったばかりという感じなのでしょうか。
もしもそうだとしたら、この次の巻か、あるいはその次の巻くらいになれば安定してくるのではないかと思われます。
もっとも読者としては、話的に「続けようと思えば続けられるけれど、ここで終わりならそれでも可」な締め方(北斗の拳で例えれば、シン戦終了後くらい)をしていることと、著者があまり速筆・多筆ではないことを考え合わせれば、あまり安穏と待ってもいられないところなのかもしれませんが……、
とりあえず自分からは、「この作家氏の『本気』はこの程度じゃない筈」という期待値も込めて、挑戦状カードを切らせて頂きたいと思います。
アーノンクールのコンサート以来、二度目となるカードを。
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